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仙台地方裁判所 平成4年(ワ)1095号 判決

原告 株式会社東北アイチ

右代表者代表取締役 菅原惠尚

右訴訟代理人弁護士 佐藤昌利

同 坂野智憲

被告 株式会社東北アイチ

右代表者代表取締役 西嶋志朗

右訴訟代理人弁護士 吉田淳

同 中嶋一麿

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、その営業上の施設又は活動に「株式会社東北アイチ」の表示を使用してはならない。

2  被告は、「株式会社東北アイチ」の商号登記の抹消登記手続をせよ。

3  被告は、別紙目録二記載の新聞に、同目録記載の体裁にて、別紙目録一記載の謝罪広告を各一回掲載せよ。

4  右1項につき仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

【請求原因】

一  原告の商号とその周知性

以下のとおりであるので、原告の商号は周知性を有する。

1 原告設立の経緯

愛知株式会社は椅子の製造・販売を業とする株式会社であり、全国各地に直販店を有していた。

しかしながら、直販店だけでは販売網が十分ではないため、昭和四五年から同四七年にかけて株式会社福岡アイチ、株式会社東京アイチ、株式会社東北アイチ、株式会社神奈川アイチ、株式会社四国アイチ、株式会社北関東アイチの各子会社を相次いで設立した。

原告はそのひとつであり、昭和四六年三月、城戸靖久及び菅原惠尚が愛知株式会社とともにそれぞれ二五パーセント、二四パーセント、五一パーセントの比率で出資して設立した会社である。

原告の設立当時の資本金は三〇〇万円、従業員は六名であり、以来、「株式会社東北アイチ」の商号ないし営業表示で、椅子、机、事務機等の販売業を営んできた。

なお、昭和四八年には資本金を六〇〇万円に増資し、昭和五一年ころ本社を仙台市青葉区一番町二丁目八番二一号秋山ビルに移転した。

さらに、昭和六一年一二月には資本金を一〇〇〇万円に増資した。

2 営業内容

(1) 原告は、その設立の経緯から、近年までは専ら愛知株式会社が製造した椅子、机、本棚を販売してきた。販売先の主力は大手建設会社及び設計事務所である。

これら大手建設会社は地方公共団体の施設である学校、文化ホール、文化センター、野球場、体育館、競技場、民間ホテル、各種大規模施設等の建築を一括して請け負うのであるが、これらの施設の固定式の椅子及び備品としての椅子、机、本棚、事務用機器は元請けたる建設会社や設計事務所が右椅子等の販売会社に発注して納入させる形式をとるのが一般である。

したがって、原告の直接の契約先は大手建設会社や設計事務所であるが、実際の納入先は県、市町村等の公共団体、及び各種民間会社である。

(2) 現在でも営業の主力は愛知株式会社から仕入れる椅子等の販売であるが、近時は販売品目も広範となり、事務機器やパーテーションポール、ダストボックス、プラントボックス、灰皿等のインテリア商品の販売にも力を入れている。

さらに、椅子、調度の販売のノウハウを生かして、建物の内装設計、インテリアコーディネイトにも進出し、また地方公共団体とのパイプを生かして都市再開発に伴う附帯設備(街路灯やガードロープ等)の販売も手掛けるようになっている。

3 顧客

前記のとおり原告の直接の顧客は大手建設会社であるが、実際の納入先は建設会社の受注先である地方公共団体、ホテル、私立学校、その他の民間企業である。したがって原告としては、これら実際の納入先の信用を得なければ建設会社からの受注も受けられない関係にあり、実質上の顧客はこれら納入先であるということができる。

そして、建設会社の受注先が極めて広範なのに比例し、原告の実質上の顧客もまた極めて広範である。

4 営業地域

原告の営業地域は東北六県と新潟県である。その中でも宮城県が全体の五割以上を占め、次いで福島県が二割ないし三割を占めている。

5 営業活動

原告の直接の契約先は既述のとおり大手建設会社及び設計事務所であり、これらはほとんど仙台及び東京に集中しているため、原告の営業活動も専らこの地域になる。ただ、実際の納入先との顔つなぎのため、各県に営業担当者を一名づつ付けて、月二回程度出張の形で得意先を回っている。

6 売上実績

原告の売上実績(毎年九月決算)は、以下のとおりである。

(年度)(売上) (利益)

昭和四九年 一億四四二三万七八八四円 五二八万四〇二五円

五〇年 一億七三一三万一九二五円 一二五万二九八二円

五一年 二億一三〇五万六四八二円 一八四万七二八七円

五二年 二億三三五四万三四五八円 五五八万九六八三円

五三年 三億〇七八一万六五七五円 四九五万七七六五円

五四年 三億八六二四万三三七四円 一〇四〇万九七一二円

五五年 三億九四二六万四五五八円 八七〇万一九五五円

五六年 四億三八四六万四五〇九円 六六四万二六五一円

五七年 三億七〇八二万五七六〇円 五一二万〇三三五円

五八年 三億九四九〇万六五四六円 二七三万八六一二円

五九年 五億三〇六五万四三八〇円 七三二万四五二六円

六〇年 四億四六一四万二三〇一円 一二六九万一八一〇円

六一年 四億五八七三万四九九七円 一二五三万二五六二円

六二年 四億四八〇八万五四二三円 六二六万七九一〇円

六三年 六億六五〇五万五九七〇円 一五一八万五一四六円

平成 元年 五億四五八六万三四九八円 一二三六万八六三四円

二年 七億二三四二万〇三三九円 一一四四万六二一七円

三年 八億一九三〇万七七三八円 二二六五万八〇〇三円

7 従業員数

原告の従業員数は以下のとおりである。

昭和四六年から同五〇年まで 六名

同五一年から同五五年まで 八名

同五六年から同五八年まで 九名

同五九年から同六二年まで 七名

同六三年から平成元年まで 一〇名

同二年から平成四年まで 一三名

その後現在に至るまで 一五名

8 原告の宣伝広告及び原告に対する第三者の評価等

以下の事実が示すとおり、原告は宣伝広告活動を活発に行っており、また第三者からもその営業に関し高い評価を受けている。

(1) 原告は設立以来NTT電話広告を利用している。平成五年度は宮城県中央版の看板・標識制作欄、同事務用機械器具販売欄、同スチール製品欄、同内装工事欄、中央企業名版のハローページへの広告掲載を申し込んでいる。原告が設立以来現在までに支払った広告費用の総額は数千万円である。

(2) 原告は社団法人仙台南法人会に所属しているが、平成四年一一月一三日、仙台南税務署長から優良申告法人として表彰され、その記事が社団法人仙台南法人会の機関誌「美名実」の一二月号に掲載されている。

(3) 原告は大手ゼネコンから仕事を受注している。商業ビル等が完成した場合はほとんど必ず竣工広告が新聞に掲載されるが、その際建設に携わった業者や備品を納入した業者は必ず広告を出しており、今までに出した新聞広告は膨大なものである。

9 以上のとおりであるから、原告の営業表示(商号)である「株式会社東北アイチ」は、現在、原告を表示するものとして、少なくとも宮城県においては周知性を取得していることが明らかである。

二  被告の商号及び営業表示

被告は昭和五七年三月五日「株式会社東北アイチ車輌」の商号で設立され、以来特殊自動車及び建設機械の販売並びに整備、特殊自動車及び建設機械の賃貸を主として営業してきた会社である。

ところが被告は、平成四年八月一日、商号を「株式会社東北アイチ」に変更し、同月三日その旨の変更登記を経由し、以来「株式会社東北アイチ」の営業表示で営業している。

被告は平成四年八月一三日付け河北新報第一〇面に「株式会社東北アイチ」の営業表示を用いて広告を出している。

三  商号の同一性

原被告の商号は全く同一である。

被告の親会社である愛知車輌株式会社(本店所在地名古屋市東区筒井三丁目二七の二五)は、平成四年四月一日から商号を「株式会社アイチコーポレーション」に変更し、これに伴って各地の子会社はその商号を「東北アイチ」等に変更しようとしたものと思われる。

被告代表者西嶋志朗は、平成四年一月二四日原告を訪れ、被告会社の当時の商号である「株式会社東北アイチ車輌」を現在の商号である「株式会社東北アイチ」に変更することを同意してくれるように申し入れをした。

原告は右申入れに対し、これを拒否するとともに、「株式会社東北アイチコーポレーション」にしてはどうかと妥協案を示したが、被告はこれを拒否し現在の商号への変更を強行したものである。

四  営業主体の混同

以下の事実が示すように、原被告の営業が混同されるおそれは大である。

1 原告の本店は仙台市太白区鈎取一丁目六番四五号であり、被告の本店は仙台市宮城野区日の出町三丁目四番八号であり、原被告の顧客はいずれも建設会社である(したがって原告の顧客が前述のとおり極めて広範にわたることを併せ考えれば、たとえ販売品目が異なるとはいえ、被告の営業は原告の営業と混同されるものであるといえる。)。

2 原告は、被告が「株式会社東北アイチ車輌」の商号で営業していた当時ですら、被告の顧客から間違って挨拶されたり、被告宛の請求書が誤って送付されたりしたことがあった。まして商号が全く同一となった現在、原被告の営業の混同のおそれがあることは明らかである。なお、これまでに原被告の営業が混同されたことを示す事実は、以下のとおりである。

(1) 原告代表者菅原惠尚は被告の顧客である日幸電機株式会社総務部経理課長佐藤孝一、同じく株式会社ユアテック取締役総務部長郡司泰雄、同じく北日本電線株式会社取締役社長櫻井俊平、同じく学校法人菅原学園学生指導部就職指導課日野昭彦から被告の代表取締役と間違われて挨拶された。

(2) 平成三年二月ころ、株式会社大林組(以下「大林組」という。)から原告に対し支払金通知書が送付されたが、右通知書には原告の分二件の他、被告の分と思われる「ナナトミRBJV001・金額一六八三〇二〇」との記載があった。原告において大林組に確認したところ、誤送付であったことがわかり、同社から大いに感謝された。仮に被告に支払うべき分を誤って原告に支払ったならば、誤りの確認やその清算等に大林組はもちろん原被告も多大の手間と時間を要したはずである。

(3) 平成四年一〇月ころ小糸樹脂株式会社(以下「小糸樹脂」という。)から被告宛と思われる請求書が原告に送られてきたので、原告において小糸樹脂に確認したところ、被告宛の請求書であることが判明したので、右請求書を小糸樹脂に返送した。小糸樹脂は社名表示用ネームプレートを販売する会社であるが、社名表示用ネームプレートは建設機械等の賃貸を業とする被告にとっても家具等を販売する原告にとっても不可欠なものであり、小糸樹脂との取引は原被告とも今後も続けるわけであり、したがって今後も右のような請求書の誤送付は避けられない。

五  営業上の利益の侵害

1 原告は椅子、机、本棚等の家具調度品の販売をメインとして一九年に渡って営業活動を継続しており、現在では家具調度品を扱う会社としてその名声が確立されている。即ち、「株式会社東北アイチ」といえば顧客は直ちに家具調度品を連想するのである。このような状況のもとで被告が同一販売地域内で、同一商号で、電気工事用の特殊自動車や建設機械の販売をすることは、原告の家具調度品を扱う会社としてのイメージを希釈化し、右商号ないし営業表示と家具調度品との結びつきを著しく弱めることとなる。即ち、被告の行為は、右商号ないし営業表示が有するところの顧客をして家具調度品を連想せしめる機能、換言すれば家具調度品についての顧客吸引力・広告力を減殺するものである。

したがって、被告が原告と同一の商号を使用することは原告の営業上の利益を害するものであることは明らかである。

2 同一商号となった現在においては、請求書の誤配等が頻繁になされ、その事務処理に原告の時間と労力が費やされて円滑な業務遂行に支障を来す可能性があることは明白である。かかる「円滑な業務遂行」もまた営業上の利益であることはいうまでもない。

会社の営業活動がその商号ないし営業表示に対する顧客の信用に依存するものであることは論を待たないところである。

原告は「株式会社東北アイチ」の商号で長年営業活動を営み、地方公共団体、大手建設会社、設計会社等から右商号の上に営々と信用を築き上げてきたのであって、被告の商号変更行為は原告が右商号の上に築いてきた信用にただ乗りするものであるばかりか、請求書の誤送付等により円滑な営業遂行を阻害する危険性があるものである。

六  以上のとおり、原告は、被告の不正競争防止法(平成五年法律第四七号による改正前のもの。以下同じ。)一条一項二号に該当する不正競争行為により営業上の利益を害される虞があり、また、営業上の信用を害されたものであるから、被告に対し、不正競争防止法一条一項柱書の規定に基づき、被告商号の使用差止及び被告商号登記の抹消登記手続を、また同法一条ノ二第四項の規定に基づき請求の趣旨第3項記載の謝罪広告をすることを求める。

【請求原因に対する認否】

一  請求原因一について

請求原因一の事実は、原告が「東北アイチ」の商号で椅子、机、事務機等の販売業を営む会社であることは認めるが、その余は全て不知。

原告は宮城県程度の範囲でもそれほど知られた存在ではなく、「株式会社東北アイチ」の商号が原告のものとして周知性を有しているとはいえない。

また、周知性が認められるためには、一県程度で知られているだけでは足りないと解すべきである。

二  請求原因二について

請求原因二の事実は否認する。

被告は昭和四三年五月に東北愛知車輌販売株式会社の商号で設立され営業してきたが、昭和五七年三月五日、本社を名古屋に置く親会社愛知車輌株式会社の仙台支店と右東北愛知車輌販売株式会社とが合併され、その後昭和六二年八月六日、株式会社東北アイチ車輌に社名を変更し、平成四年八月三日株式会社東北アイチに社名変更登記をしたものである。

また、被告が平成四年八月一三日付け河北新報に出したのは社員募集の広告である。

三  請求原因三について

請求原因三の事実中、原被告の商号及び営業表示が同一であること、被告の親会社である愛知車輌株式会社が平成四年四月一日から商号を「株式会社アイチコーポレーション」に変更したことは認め、その余は否認する。

被告代表者西嶋志朗が平成四年一月下旬ころ原告方を訪れたのは被告の商号変更の同意を求めに行ったのではなく、近く社名を変更するので儀礼上の挨拶に行ったに過ぎない。

四  請求原因四について

1 請求原因四の事実中、原被告の本店所在地については認め、その余の事実は否認する。

被告の顧客は原告の主張するような建設会社ではなく、電気工事会社、電話工事会社等である。

2 同2(1)ないし(3)の事実は不知であり、以下のとおり反論する。

(1) 日幸電機株式会社及び株式会社ユアテックは被告の顧客であり、北日本電線株式会社は被告の直接の得意先である東北電力株式会社の下請け会社であり、被告は北日本電線株式会社から物品を購入している。学校法人菅原学園は被告への就職者の斡旋を依頼していることから、被告と親しい関係にある。いずれにせよ、これらの団体の関係者から原告が仮に挨拶されることがあっても、何の迷惑にもならないはずである。

(2) 平成三年四月時点では、被告は現在の商号を用いていなかった。また、仮に請求書等の誤送、誤配があったとしても、一回迷惑を被ったからといって、被告の商号登記抹消を請求しうるような因果関係があるとはいえない。

(3) 被告は小糸樹脂から同社の製品を若干量購入するが(被告の製品上にネームプレートを貼付するため)、原告との間で請求書等の誤送付はほとんど皆無といえる。したがって、被告が原告のために商号を抹消しなければならない因果関係は認められない。

五  請求原因五について

請求原因五1及び2のうち、「株式会社東北アイチ」といえば顧客は直ちに家具調度品を連想する旨の事実は否認し、その余の主張は争う。

むしろ逆に「株式会社東北アイチ」といえば、一般顧客はこの数十年来電気工事用の特殊自動車や建設機械を販売する被告のことをイメージしてきている。営業してきた期間ひとつとっても、被告のほうが原告よりも長いのである。

また、原被告はその取扱商品が全く異なるのであって、原告がその営業上迷惑を受けることは全くありえないし、現にそのような事実はない(請求書等の誤配の頻繁化などは考えられないし、円滑な業務遂行に支障を来すことも考えられない。)。

理由

一  原告がその本店を仙台市太白区鈎取一丁目六番四五号に置き、「株式会社東北アイチ」の商号で椅子、机、事務機等の販売業を営む会社であること、被告が愛知車輌株式会社(平成四年四月一日から商号を「株式会社アイチコーポレーション」に変更)の子会社であり、その本店を仙台市宮城野区日の出町三丁目四番八号に置き、原告と全く同一の商号で営業してきた会社であることについては、当事者間に争いがない。

二  そこで、原告の商号の周知性の有無について検討する。

証拠《甲三の1ないし6、四ないし六八、七七の1ないし69、原告代表者》によれば、以下の事実を認めることができる。

1  原告は、昭和四六年三月に、愛知株式会社、城戸靖久及び菅原惠尚(現在の原告代表取締役)とその家族が出資して資本金三〇〇万円で設立した株式会社であるが、その後昭和四八年には六〇〇万円、同六三年には一〇〇〇万円に増資した。

2  愛知株式会社は昭和三〇年ころまで愛知木工株式会社という木工所であったが、映画館用の椅子の制作で成長を遂げ、昭和四六年当時は折りたたみ椅子の制作で重きをなすに至っていた。菅原惠尚らとともに原告を設立したのも、折りたたみ椅子という商品力を生かし全国に販売網を敷く布石としての活動であり、愛知株式会社は、原告の他にも、昭和四五年から同四七年にかけて、九州地区に株式会社福岡アイチ、東京地区に株式会社東京アイチ、神奈川地区に株式会社神奈川アイチ、四国地区に株式会社四国アイチ、北関東地区に株式会社北関東アイチというように子会社を設立してきた。もっとも、子会社の経営者の後継者難等のため、現在残っているのは原告と株式会社北関東アイチだけであり、その他は愛知株式会社の支店又は営業所となっている。

3  原告の主たる営業地域は東北六県である。また、原告は、仙台に本店を有するだけで、支店その他営業所は有していない。

4  原告の営業の実態は次のとおりである。即ち、学校、文化センター、運動場、競技場、体育館、ホテル、庁舎、公園等の各種大規模施設が建設される旨の情報を得た場合において、施工者(地方公共団体等)から工事の時期・内容等を聴取したうえ、設計事務所と交渉し原告の製品を設置することを要請したり、あるいは当該工事を担当する建設会社が決定された後はその会社と交渉する等して、原告の製品(椅子、建物の館内表示板、モニュメント等)を売り込む。このようにして原告の製品を学校や文化センター等に入れることが決定された後に取り付け作業に入る(したがって、原告の直接の契約先は設計事務所や建設会社であり、製品の納入先が地方公共団体、ホテル、私立学校、その他の民間企業等であるということになる。)。

5  原告の営業成績は、昭和四九年において売上約一億四〇〇〇万円、利益約五二八万円、昭和五六年において売上約四億三〇〇〇万円、利益約六六四万円、昭和六三年において売上約六億六〇〇〇万円、利益約一五〇〇万円、平成三年において売上約八億八〇〇〇万円、利益約二二〇〇万円、平成四年において売上約七億二〇〇〇万円であって、ほぼ順調に発展を遂げてきたが、それほど多額の利益を得ているとはいえない。

6  原告の従業員は、設立当初は六名であり、その後増加しているものの、現在も一五名にとどまっている。

7  原告は、広告宣伝のため、原告の製品(椅子等)を納入した建築物が竣工し、地域の地方紙等にその旨の広告(いわゆるオープン広告)がされる際に、その建築物に製品を納入した関連業者として、一緒に広告を載せる(現在も、年に二〇回程度はこのような新聞広告を出している。)《甲五ないし六七》。また、原告は、日本電信電話株式会社との間で、電話帳広告契約を締結し、電話帳(NTTハローページ宮城県中央版、中央企業名版)に原告の電話番号を掲載し、かつ、特有のロゴ等も表示させている《甲三の1ないし6》。

8  前記のとおり原告の契約先の主たるものは建設会社及び設計事務所であるが、建設会社と原告との昭和六三年三月から平成六年九月までの取引関係の内容は別表記載のとおりである《甲七七の1ないし69》。

9  原告は社団法人仙台南法人会に所属しているところ、平成四年一一月一三日、仙台南税務署長から優良申告法人として表彰された経験を有する《甲四》。

以上の事実関係によれば、原告の「株式会社東北アイチ」の商号は、建設会社及び設計事務所に限り、椅子、机、事務機等の販売を営む会社の商号として、東北六県において一応知られているといえなくはないが、原告の商号が周知性を有すると断ずるまでには至らない。

三  のみならず、仮に原告の商号に周知性があるとしても、以下のとおり、被告が原告と同一商号を使用することによって、原告が、不正競争防止法一条一項柱書にいう「営業上ノ利益ヲ害セラルル虞アル者」に当たるということはできないし、同法一条ノ二第四項にいう「営業上ノ信用」を害せられた者に当たるということもできない。

1  被告の設立の経緯と営業状況

証拠《乙四ないし七、一一ないし一八、二一の1、2、被告代表者、弁論の全趣旨》によれば、以下の事実を認めることができる。

(1)ア 被告の親会社である愛知車輌株式会社は、昭和三七年二月、名古屋市において設立され、昭和三八年四月ころ東京都内に営業所を開設したが、翌昭和三九年八月には右営業所を東京支社に昇格させた《被告代表者、弁論の全趣旨》。

イ 昭和四三年五月、仙台市に東北愛知車輌販売株式会社が設立された《乙三》。同社は、愛知車輌株式会社との間で代理店契約を締結し、これに基づいて販売営業をしてきた《乙一八、被告代表者》。

ウ 愛知車輌株式会社は、昭和四五年八月、同社東京支店管轄下に仙台営業所(所在地は東北愛知車輌販売株式会社と同じ)を開設した《被告代表者、弁論の全趣旨》。

エ 愛知車輌株式会社は、昭和五一年七月、仙台営業所の新社屋を建設したが、さらに昭和五五年一二月に、右仙台営業所を同社仙台支店に昇格させた《乙一八、被告代表者》。

オ 愛知車輌株式会社仙台支店と東北愛知車輌販売株式会社は、昭和五七年三月合併し、「愛知車輌東北販売株式会社」という会社名で新規に設立登記《乙四》した。これが被告の前身となる会社である。

カ 愛知車輌東北販売株式会社は、昭和六二年八月六日、社名を「株式会社東北アイチ車輌」と変更した《乙五》。また、同社は、この時期から、東北におけるユーザーからは、しばしば、「東北アイチ」さん、「アイチ」さん等と呼ばれていた。

キ 株式会社東北アイチ車輌は、平成四年八月一日、会社名を現在の「株式会社東北アイチ」に変更した《乙六》。これは、平成四年二月、親会社たる愛知車輌株式会社が創立三〇周年を期に、社名を株式会社アイチコーポレーションに変更し《乙七》、企業グループのイメージアップを目的に系列企業の社名統一を行う旨決定したことを受けたものであった(例として、「株式会社九州アイチ」、「株式会社中国アイチ」、「株式会社四国アイチ」等。《乙一一ないし一七》)。

なお、被告代表取締役西嶋志朗は、「株式会社東北アイチ」に商号を変更するに当たり、総務担当者とともに原告方を訪れたことがあった。これは、被告としては、商号の変更をした場合に原告と商号が一致する結果となることは既にこの時点で認識していたものであったところ、両社は業態も登記区域も異なることから法律上問題はないが、社会儀礼上挨拶をする必要があると判断した結果されたものであった(この点、証拠《原告代表者》中には、被告代表取締役西嶋志朗は社名変更の承諾を求めるために原告方を訪れたものである旨供述している部分があるが、他の証拠と対比すれば採用することができない。)。

(2) 被告の親会社である株式会社アイチコーポレーションは昭和六三年一一月に東京証券取引所第一部上場を果たし、現在は資本金六九億一八〇〇万円、年間売上は四〇〇億円から五〇〇億円程度である。同社は、主として高所作業車等の特殊自動車の製造・販売・修理及び賃貸を業としており、業界の最大手としてシェアは八割に達している《乙一八、二一の1、2、被告代表者本人》。被告を含む子会社は、株式会社アイチコーポレーションの製作にかかる高所作業車等の販売・修理等を主として行っている。

また、被告の資本金は四〇〇〇万円、年間売上は五〇億円に達しており、被告の従業員は現在五九名である《乙六、一八、被告代表者本人》。

(3) 株式会社アイチコーポレーションが製作し、被告を含む子会社が販売している高所作業車等の主要納入先は、大手電力会社(東北においては東北電力株式会社)、日本道路公団等の公共団体、各都道府県庁、一部上場の大企業等である(もっとも、建設会社等にはあまり製品を納入していない。)。また、海外の納入国はアメリカ合衆国を始めとして三〇か国を超えている。

2  原告と被告との混同の有無及び程度

証拠《甲六八ないし七〇、七一の1、2、七二ないし七四、乙一八、原告代表者及び被告代表者》によれば、以下の事実を認めることができる。

(1) 原告を被告と間違えた電話が平成五年四月から平成六年六月までの間に、少なくとも五〇件以上かかってきた《甲六九》。

(2) 大手建設会社である大林組から、被告に出すべき支払案内が原告に送付されたことがあった《原告代表者》。

(3) 小糸樹脂や飲食店「馳走亭」等から被告への請求書が、誤って原告に送付されたことがあった《甲七一の1、2、七二、七三》。

(4) 株式会社東京大洋工芸や飲食店「一柳」から、被告への葉書が誤って送付されたことがあった《甲七三、七四》。

(5) 原告代表取締役菅原惠尚は、被告の取引関係者である新日本建販株式会社の主任補佐々木清から、被告側の人間と間違って挨拶され、名刺を渡されたこともある《甲七〇、原告代表者》。

(6) 被告が「株式会社東北アイチ」の商号を使用するようになってから、原告に対する請求書等の被告への誤配や原告あての電話の被告への間違い電話がかかってきたこと等があったが、被告としては、その都度丁寧に応対するように従業員に指導してきたとともに、現在ではこの種の間違いの件数は少なくなっている。

なお、原告が被告と混同されたのは、右(1)ないし(6)のような局面においてのみであって、ほかに原告が営業活動等のうえで被告と混同された事実又は今後それ以上の混同が生じることを推認するに足る事実は、本件全証拠によっても、これを認めることができない。

3  原告の「営業上ノ利益ヲ害セラルル虞アル者」及び「営業上ノ信用」を害せられた者の該当性の有無

(1) 原告と被告の商号は、全く同一であるが、その営業内容は、片や椅子・机・本棚等の製作販売(原告)であり、片や高所作業車等の販売賃貸等(被告)であるから、全く異なっているといえる。そして、取引の相手方についてみれば、原告の相手方は建設会社が主であるに対し、被告の相手方は、原告のそれとほとんど重なり合っていないことも明らかである。これらの事情に照らせば、原告の被告との間においては、具体的な競争関係が生じる余地は全くないということができる。このように、原被告の取引先にはほとんど重なり合いがなく、競争関係が生じない以上、被告が原告と同一の商号を使用することによって原告の得意先が喪失されるとか原告の売上が減少するとかいう可能性は想定しがたい。

(2) 原告の資本金は一〇〇〇万円、対して被告のそれは四〇〇〇万円であり、売上も原告は七億円から八億円程度であるに対し被告は五〇億円程度である。したがって計算上、被告の企業規模は原告のそれに数倍することになる。

しかも、被告の親会社である株式会社アイチコーポレーションは東京証券取引所一部上場の大企業であり、高所作業車製造に関しては日本の最大手として圧倒的なシェアを占めていることは既に認定したとおりである。また、そのシンボルマークは株式会社アイチコーポレーションと子会社である被告その他の企業とが共通にこれを使用していることは証拠《乙一の1ないし3、九》上明らかであること、したがって被告と株式会社アイチコーポレーションは取引関係者からみれば一体の存在として意識されているであろうと推認できることを考慮すれば、被告と原告とは、企業としての名声ないし周知の度合いにおいて、右のような単純な企業規模の計数的比較によって現れるものよりも大幅な格差があるものと考えられる。

(3) 既に認定・判示したところによれば、被告が「株式会社東北アイチ」の商号を使用することとなったのは、親会社である株式会社アイチコーポレーションの経営判断に従ったまでのことであると認めることができ、被告において、原告の商号に化体されている原告の名声を利用しようとする意思が存在することを窺わせる証拠は存在しない。のみならず、被告は、既に「株式会社東北アイチ車輌」の商号を用いていた時代から、取引先からは「東北アイチさん」「アイチさん」といった呼び方をされていたというのであり、これらの事実によれば、被告において、いわゆるただ乗りを画策した事実を認めることはできないし、将来にわたってただ乗りをして不当な利益を取得しようとする意図を認めることもできない。

(4) 原告は、長年にわたり「東北アイチ」として信用を築いてきたものであり、「東北アイチ」といえば顧客は直ちに椅子その他の家具調度品を連想するのであって、被告が同一の商号を使用することは、原告の家具調度品を扱う会社というイメージを希釈化し、顧客吸引力・広告力を減殺すると主張するのであるが、仮に、原告が被告と何らかの系列関係があると誤解され、高所作業車の製作販売に関して日本を代表する企業の一つである被告の親会社(株式会社アイチコーポレーション)とも何らかの関係があるものと誤解されたとしても、そのことから原告の顧客吸引力・広告力が減殺されるとは、経験則に照らし、直ちにいうことができない。

(5) 郵便物の誤配や間違い電話等による営業上の迷惑を被らないこと(営業上の平穏)もまた営業上の利益に包含されることは当然であり、本件でも、原告においてそのような迷惑を被った事実があることは既に認定したとおりである。しかしながら、被告において「株式会社東北アイチ車輌」の商号で営業していた当時ですら、原告が、被告の顧客から間違って挨拶されたり、被告宛の請求書が誤って送付されたりしたことがあったというのであり(原告の主張による。)、それは、むしろ、被告が「東北アイチ」さん、「アイチ」さん等と呼ばれており、著明であったことに由来するものであると考えられる。

そして、このような、郵便物の誤配や間違い電話等は、時間の経過とともに漸減するものと考えられるから、前記認定した程度の混同をもって原告の営業上の利益が害される虞があるとはいえない。

(6) 前記のとおり、被告が「株式会社東北アイチ車輌」の商号で営業していた当時においても「東北アイチ」さん、「アイチ」さん等と呼ばれていたことに照らせば、そのころから原被告間の営業の誤認混同の契機は存在していたものであり、同一商号になったことによって飛躍的に問題性が顕在化したということはできない。

(7) 以上検討したところによれば、被告が原告と同一商号を使用することによって、原告が、不正競争防止法一条一項柱書にいう「営業上ノ利益ヲ害セラルル虞アル者」に当たるということはできないし、同法一条ノ二第四項にいう「営業上ノ信用」を害せられた者に当たるということもできないというべきである。

四  以上のとおりであって、原告の請求はいずれも理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石井彦壽 裁判官 中村也寸志 裁判官 大島雅弘は、転補のため署名押印することができない。裁判長裁判官 石井彦壽)

別紙 目録 一

謝罪広告

当社は、仙台市宮城野区日の出町三丁目四番八号において、「株式会社東北アイチ車輌」の商号で、特殊自動車および建設機械の販売、整備、賃貸業を営んでおりましたところ、平成四年八月一日商号を「株式会社東北アイチ」に変更いたしました。しかし右商号は昭和四六年以来、仙台市太白区鈎取一丁目六番四五号に本社を持ち、椅子、机、事務機器等の販売を業としてきた株式会社東北アイチによって使用されてきたものでした。当社の右商号変更により当社の営業と株式会社東北アイチの営業との混同を生じ、株式会社東北アイチに対し多大な御迷惑をおかけしました。

よって、ここに深くお詫び申し上げます。

株式会社東北アイチ(旧社名株式会社東北アイチ車輌)

右代表者代表取締役 西嶋志朗

別紙 目録 二

掲 載 条 件

一 掲載紙

河北新聞

日本経済新聞(東北版)

二 掲載場所

紙面第三面に縦五段抜き、横紙幅一杯

三 字格

見出し部分及び被告社名、代表者名は三号活字、本文は六号偏平活字以上

別表 〈省略〉

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